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大阪高等裁判所 昭和27年(ネ)1020号 判決

昭二七(ネ)第一〇二〇号事件控訴人・昭三二(ネ)第三四〇号事件被参加人 大阪水産物直売株式会社

昭二七(ネ)第一〇二〇号事件被控訴人・昭三二(ネ)第三四〇号事件被参加人 堀井信義

昭三二(ネ)第三四〇号事件当事者参加人 高木惣太郎

主文

1  当事者参加人の本件参加申出を却下する。

2  控訴人の控訴に基き原判決を取り消す。

3  被控訴人は控訴人に対し大阪市旭区千林町三丁目一八二番地(元同町一、三三四番地)上木造スレート葺二階建南向店舗一棟の内二階四〇坪の部屋を明け渡し、右店舗の階下四五坪の内東南部及び二階へ通ずる階段の西側及び北側の土間に存在する被控訴人の所有物件を撤去してその部分を明け渡せ。

4  控訴人の被控訴人に対するその余の請求を棄却する。

5  訴訟費用中控訴人と被控訴人間に生じたものは、第一、二審を通じこれを二分し、その一を被控訴人の負担とし、その一を控訴人の負担とし、当事者参加により生じたものは、当事者参加人の負担とする。

6  この判決は控訴人が被控訴人に対し五〇〇、〇〇〇円の担保を供するときは、主文第三項に限り仮に執行することができる。

事実

控訴及び被参加人(以下控訴人という。)代理人は、控訴につき、「主文第二、三項と同旨及び被控訴人は控訴人に対し昭和二五年四月二日から主文第二項記載の店舗(以下本件店舗という。)の内二階四〇坪の部屋の明渡及び右店舗の階下四五坪の東南部と二階に通ずる西側及び北側の土間に存在する被控訴人所有の物件の撤去、その部分の明渡ずみに至るまで一ケ月五〇、〇〇〇円の割合による金員を支払え。訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。」との判決並びに仮執行の宣言を求め、当事者参加申出につき、本案前の答弁の趣旨として、主文第一項と同旨の判決を、本案の答弁の趣旨として、「当事者参加(人以下参加人という。)の控訴人に対する請求を棄却する。当事者参加により生じた訴訟費用は参加人の負担とする。」との判決を求め、被控訴及び被参加人(以下被控訴人という。)代理人は、控訴につき、本件控訴を棄却するとの判決を、当事者参加申出につき、本案前の答弁の趣旨として、主文第一項と同旨の判決を、本案の答弁の趣旨として、参加人の被控訴人に対する請求を棄却する。」との判決を求め、参加人代理人は、「参加人に対し、被控訴人は別紙第一目録記載の物件を、控訴人は別紙第二目録記載の物件を明け渡せ。参加による訴訟費用は、控訴人と被控訴人(被参加人)の負担とする。」との判決並びに仮執行の宣言を求めた。

控訴人及び被控訴人の主張は、

被控訴代理人において、仮に控訴人が本件店舗につき賃借権を有し、単なる賃借人にも代位権があるとしても、乙第九号証により明らかなとおり、控訴人は既に参加人から賃貸借契約を解除され賃借人の地位を失つたから代位権を有しない。仮にそうでないとしても、賃借人として第三者に対抗するには賃借家屋の引渡を受けることを要する。しかるに、控訴人は被控訴人が引渡を受けた後被控訴人の占有を侵害したのであつて、参加人から引渡を受けていなかつたのであるから、代位権を有しない。仮に控訴人に代位権があるとしても、被控訴人は右店舗につき次のとおり賃借権を有する。株式会社高島屋は参加人から本件店舗を賃借して森小路分店として営業をしていたが、その二階の売場をもて余しこれを活用するため、被控訴人と異例な契約を結んだ。すなわちいわゆる消化仕入又はケース貸でなく被控訴人に右店舗の階上全部及び階下の一部分を賃貸し被控訴人の計算で経営する家具販売業に使用させ、外部的には高島屋の営業のように高島屋の商号の使用を許して販売させ、その対価として被控訴人の売上高の一割ないし五分を高島屋が収受する旨の契約をした。その契約の性質は、家屋の一部の賃貸借と商号の使用に関する一種の無名契約とが結合したものである。高島屋が右森小路分店を閉鎖して本件店舗を参加人に返還するについては、被控訴人以外のいわゆる消化仕入指定商人に対しては高島屋野田分店に転属させる措置をしたが、被控訴人との間には右のような契約があつたから、転貸部分の明渡をさせるためには、被控訴人の手持商品を買い上げる外に相当な補償を要するのであり、被控訴人としては補償をして貰うより前記森小路分店の閉店後の本件店舗全部を賃借して営業を経続する方が優つているので、参加人に対し右店舗全部の賃貸方を交渉した結果、被控訴人は参加人から賃料一ケ月五、〇〇〇円、補修費一ケ月一五、〇〇〇円、権利金三〇〇、〇〇〇円(参加人は当初五〇〇、〇〇〇円を要求したが、三〇、〇〇〇円となつた。)の約定で賃借することとなり、前記森小路分店の閉店直前の昭和二四年六月一〇日頃権利金の内金として一〇〇、〇〇〇円を参加人に交付し、参加人は喜んでこれを受領し、本件店舗全部を被控訴人に引き渡した。しかるに、増井一雄(同年七月六日設立された控訴会社の社長兼株式会社あさひの社長である。)一派は、高島屋が本件店舗を参加人に返還した際にこれを借り受けマーケツト式にして商人に貸与することを画策し、高島屋の幹部社員で分店部長であつた阪田義男らを買収して被控訴人を追い出そうとしていたところ、被控訴人が前記のように参加人から本件店舗を借り受け権利金の内払をしたことを知り、参加人に対し権利金の交付を受けると刑事上の制裁を受けることとなるから即刻返還するようにすすめ、被控訴人との賃貸借契約をやめさせようと策謀したため、参加人は被控訴人との間の賃貸借契約は未だ権利金の内入にすぎないし契約証書も作成していないから、内入権利金を返還すれば解除できるものと考え、被控訴人に返還しようとしたが、被控訴人がこれを受領しなかつたので、参加人は妻きよと謀り被控訴人方へ早朝に右内入権利金を投げ込むような暴挙をした。しかし、被控訴人と参加人との間に一旦成立した賃貸借契約は、このような事実により効力を失うものではない。被控訴人は前記のように権利金の内払をし、昭和二四年六月一一日から高島屋が本件店舗の階下の明渡を始めたので、明渡のあつた部分に順次被控訴人の商品を陳列し始めたのであるが、その当時には参加人も現場に来て階下の造作につき被控訴人の相談に応じていたのである。以上のように被控訴人は本件店舗を参加人から適法に賃借したのであるが、その後控訴人の策謀により参加人と通謀して控訴人と参加人との間に賃貸借契約が成立したとして、被控訴人を本件店舗から追い出すために、控訴人が本訴を提起したことが明らかであるから、本訴請求は失当である。と述べ、

控訴代理人において、被控訴人と参加人との間に被控訴人主張のような賃貸借契約がなされ、参加人が被控訴人から権利金の内金一〇〇、〇〇〇円を受領したことは否認する。参加人は当時株式会社高島屋のあつせんと保証がなければ何人にも本件店舗を賃貸する意思がなかつたのであつて、控訴人は高島屋の分店部長阪田義男及び清水松太良のあつせんの下に参加人から右店舗を賃借したのである。その当時被控訴人からも参加人の妻きよに対し右店舗の賃貸方の申入をしたが、きよは参加人と相談しておく旨回答したのみであり、参加人は前記阪田義男らを通じて控訴人からも賃貸の申込があつたので、被控訴人に真実賃借する意思があるかどうか賃借条件はどうかにつき西尾加藤治を通じて被控訴人に問い合せたところ、被控訴人に賃借する意思のないことを回答したので、本件店舗を控訴人に賃貸する決意をしたのである。しかるに、被控訴人は控訴人と参加人との間の賃貸借契約を破棄させ、参加人に被控訴人と賃貸借契約を締結させようとして一〇〇、〇〇〇円を参加人に押しつけ受領させようとして持参したが、参加人に受領を拒絶させ、持つていたレインコートとともにこれを参加人方に放置して逃げ帰つたのであつて、賃貸借契約が成立し参加人が権利金の内金一〇〇、〇〇〇円を受領したのではない。従つてその領収書も存在しない。本件店舗は大阪市旭区千林通の繁華街に在つて参加人にとつて重要な財産である。このような建物を賃貸するに当つては賃貸借契約書等を交換して賃貸するのが社会通念に照して賃貸人のとるべき措置である。しかるに、被控訴人と参加人との間には一片の契約書も存在していないことが明らかであるから、口頭のみで契約をしたと認めることは社会通念に反する。以上の次第で、被控訴人は本件店舗を参加人から賃借した事実はないのであるから、被控訴人の主張は虚偽である。

と述べた外、原判決の事実記載と同一であるから、これを引用する。

参加人代理人は、

控訴人及び被控訴人に対する請求原因として、

一、参加人は、昭和一〇年六月二五日からその所有の本件店舗を株式会社高島屋に期間を一〇年と定めて賃貸して来たが、その間被控訴人は高島屋といわゆるケース貸契約を結び、右店舗の一部で箪笥類の販売をしていた。参加人と高島屋とは、昭和二四年四月右賃貸借契約を合意解除し、高島屋は参加人に右店舗を同年六月中旬明け渡すこととなつた。同年六月三日頃高島屋から参加人に対し右店舗を控訴人を賃貸してやつてくれとの申出があつたので、参加人は同年七月一〇日右会社の社員の立会の上で控訴人に右店舗を賃料一ケ月五〇、〇〇〇円(昭和二八年三月分から控訴人承諾の下に一ケ月五五、〇〇〇円に増額された。)毎月五日その月分を参加人方に持参して支払うこと、期間は五ケ年とする約定で賃貸する旨の契約をした(丙第一号証)。しかるに、控訴人は昭和二九年二月分以降の賃料の支払をしなかつたので、参加人は昭和三〇年七月一三日付書面により書面到達後七日以内に延滞賃料の支払をされたい、もし支払をしないときは賃貸借契約を解除する旨の催告と条件付契約解除の意思表示をし、右書面は翌一四日控訴人に到達したのに、控訴人はその支払をしなかつたから、右賃貸借契約は同月二二日解除された。従つて、控訴人は参加人に右店舗の明渡義務をするべきがある。そこで、参加人は控訴人に対し、右店舗の内控訴人の占有する別紙第二目録記載の部分の明渡を求める。

二、参加人は、本件店舗につき被控訴人と賃貸借契約を締結したことはない。被控訴人は、参加人から右店舗を貸料一ケ月五、〇〇〇円、修繕費として一ケ月一五、〇〇〇円を支払う約定で賃借したと主張するが、このような事実はない。参加人が控訴人に右店舗を賃貸した当時の賃料は右のような低額のものでなく、前記のように賃料を一ケ月五〇、〇〇〇円であつた(丙第一号証)のであるから、被控訴人主張のような約定で賃貸するはずはない。また被控訴人が今日に至るまで約一〇年間右店舗の内別紙第一目録記載の部分を占拠しながら、その間賃料の支払をしていない事実によつても、参加人と被控訴人との間に賃貸借契約の存在していないことは明らかである。この点に関する控訴人の主張及び立証をすべて援用する。もつとも、被控訴人は、前記のように株式会社高島屋といわゆるケース貸契約をしていたのであるが、元来百貨店におけるいわゆるケース貸については、百貨店と当該商人との契約の内容如何にかかわらず、これを以て賃貸人に対抗できる法律上の理由とすることができないのは勿論、甲第二号証の趣旨は決して転貸借を意味するものではない。従つて、参加人と株式会社高島屋との間の賃貸借契約が合意解除により終了した以上、被控訴人は本件店舗から退去する義務がある。そこで、参加人は所有権に基き被控訴人に対し、本件店舗の内被控訴人の占有する別紙第一目録記載の部分の明渡を求める。

控訴人の主張に対し、

控訴人は参加人に対し、昭和二四年七月から昭和二七年六月まで一ケ月一五、〇〇〇円の割合、昭和二七年七月から昭和二九年一月まで一ケ月三五、〇〇〇円の割合による補修費を支払つたと主張するが、他方控訴人と参加人との賃貸借条件は賃料一ケ月五、〇〇〇円で、それ以外に何らの約定もない旨主張しているのであるから(昭和二九年一月二二日付控訴人の準備書面一、(ロ)、( ))、控訴人は補修費の名目で定期的に支払うべき債務はないことになる。従つて、控訴人はこのような補修費の支払をするはずはない、仮に控訴人が補修費として現実に支払つたとすれば、控訴人にはその返還請求権はない。次に、参加人は株式会社高島屋から本件店舗を控訴人に賃貸するよう依頼を受けた際、控訴人と高島屋とは特殊な関係にあり、高島屋が被控訴人を右店舗から退去させて控訴人に使用させることにつき責任を持つこと、控訴人においても高島屋との間に円満に右店舗の占有の移転を受けること、被控訴人に関する問題はすべて控訴人と高島屋との間で解決する旨誓約していたのであるから、控訴人が本件店舗全部を使用収益することができないことにつき、参加人には責任がない。

と述べ、

控訴代理人は、答弁として、

一、債権者が債務者に代位し第三債務者に対し訴を提起した場合には、債務者はこれと同一の訴を提起することができないものと解するべきところ、本訴は控訴人が賃借権者として本件店舗の所有者である参加人に代位して被控訴人に右店舗の明渡を求めるものであるから、参加人は控訴人の代位権行使とともに独立の当事者適格を失い被控訴人に対する関係で本訴と同一の効果を生ずる本件参加の申出をすることはできない。そればかりでなく、参加人は控訴人に対し本件賃貸借契約を解除し、これを請求原因として本件店舗の明渡を求めるため本件参加申出をしたところ、参加人の主張によれば、右解除原因は第一審判決後である昭和二九年二月以降に生じ、昭和三〇年七月二二日解除の効力を生じたというのであるが、右解除が有効か否かについては、控訴人は三審の裁判を受ける権利を有するのであるから、本件参加を許すときは、控訴人の右権利を不当に奪う結果となる。従つて、本件参加は許されるべきではないから、却下されるべきである。

二、控訴人と参加人との間の本件店舗の賃貸借契約における賃料は、一ケ月五、〇〇〇円であつて参加人主張のように一ケ月五〇、〇〇〇円ではなく、昭和二八年三月分から一ケ月五五、〇〇〇円に増額されたこともない。控訴人が参加人に本件店舗の賃料の支払をしていないこと、控訴人が参加人主張の日その主張の催告並びに条件付契約解除の意思表示があつたことは認める。しかし、控訴人が右店舗の賃料の支払をしないのは、参加人及び被控訴人の責に帰すべき理由により右店舗全部を使用できないからである。参加人は賃貸人として賃借人である控訴人に対し右店舗全部を使用収益させる義務があるのに、その義務を履行していないのであるから、控訴人は右債務と同時履行の関係に立つ賃料支払義務の履行を拒絶することができる。仮にそうでないとしても、参加人が右店舗全部を使用収益させないで、店舗全部の賃料の支払を請求するのは信義則に反し賃料の請求自体無効である。従つて、昭和三〇年七月一三日付参加人の催告は無効であるから、契約解除の効果は発生していない。仮にそうでないとしても、参加人主張の書面による賃料の催告に対し、控訴人は昭和三〇年七月一八日付書面(甲第二〇号証の一)で、参加人は本件店舗全部を控訴人に使用収益させる義務があるのに、その義務を履行していないため、控訴人は店舗全部の使用収益をすることができなかつたから、その使用部分の賃料は半額をもつて相当とするところ、参加人の立場を考慮して本件店舗の賃借以後昭和二九年一月分まで右店舗全部の賃料及び補修費として合計一、七七〇、〇〇〇円(実際は一、九二〇、〇〇〇円であるのを誤算したものでその内訳は別紙明細書のとおりである。)を支払つて来たが、右は控訴人の使用収益している右店舗の部分に比して過払となつておりその半額の返還を請求し得る権利があるから、右過払分の内八八五、〇〇〇円と参加人の請求する延滞賃料の内控訴人の支払義務のある延滞賃料の半額とを対当額で相殺する旨の意思表示をし、過払分三九〇、〇〇〇円の返還を求め、右書面は翌一九日参加人に到達した。従つて、控訴人には参加人主張のような賃料支払義務の不履行はないから、契約解除の効力はない。

と述べ、

被控訴代理人は、答弁として、

一、債権者が債務者に代位して第三者に対し訴を提起した場合には、債務者はこれと同一の訴については当事者適格を失い(非訟事件手続法第七六条第二項参照)、同一の訴の提起は勿論訴の提起と同一効果を生ずる当事者参加の申出をすることはできないものと解すべきところ、控訴人の被控訴人に対する本訴請求は、控訴人が参加人に代位してこれを提起したものであることが明らかであるから、参加人は、本訴につき控訴人の補助参加はできるが、当事者として独立参加をすることはできない。従つて、本件参加申出は不適法として却下されるべきである。

二、参加人主張の請求原因に対する答弁及び被控訴人の主張は、次のとおり付加する外、本訴につき被控訴人のしたところをすべて援用する。参加人は被控訴人は約一〇年間賃料を支払つたことがないと主張するが、右は参加人が賃料を受領しないためであつて、被控訴人は参加人が受領するならば、何時でも賃料を支払う用意をしている。

と述べた。

控訴人と被控訴人との証拠の提出援用認否は、

控訴代理人において、甲第一一号ないし第一三号証の各一、二、第一四号証、第一五号証の一、二、第一六号証の一ないし四、第一七号証の一、二、第一八号証の一ないし三、第一九号証、第二〇号証の一、二、検甲第一号ないし第九号証を提出し、検甲第一ないし第六号証は、被控訴人が昭和二八年一月一六日午後一〇時頃控訴人占有中の本件店舗階下土間約三一坪に存在した控訴人所有の物件を撤去した直後の右店舗の内部の状況を写した写真、検甲第七号ないし第九号証は、昭和二八年一月一六日午後一〇時以前の右店舗の階下土間における被控訴人の占有部分を写した写真であると述べ、当審証人河津健次、池北与吉、高木きよ、清水松太良、西尾加藤治、高木惣太郎、佐々木重生、森田実、島岡正治、梅園貞雄(第一、二回)、尾崎徳次郎、阪田義男の各証言、当審における控訴会社代表者増井一雄本人尋問の結果を援用し、乙第七、第一〇号証、丙年一号証の成立は不知、乙第八、九号証、第一一号証、丙第二、三号証の成立は認めると述べ、

被控訴代理人において、乙第七号ないし第一一号証を提出し、当審証人山本マスヱ、堀井キヨ、杉田信一、倉知修、篠原良文の各証言、当審における被控訴人本人尋問の結果を援用し、甲第一一号ないし第一三号証の各一、二、第一四号証、第一五号証の一、二、第一九号証、第二〇号証の一、二、丙第二号証の成立は認める。甲第一六号証の一ないし四、第一七号証の一、二、第一八号証の一ないし三の成立及び検甲第一号証ないし第九号証が控訴人主張のような写真であること並びに丙第一、第三号証の成立は、いずれも不知

と述べた外、原判決の事実記載と同一(但し原判決三枚目裏六行目に第一、二号証とあるのを乙第一、二号証と訂正する。)であるから、これを引用する。

参加人代理人は、証拠として、丙第一ないし第三号証を提出し、当審における参加人本人尋問の結果を援用し、甲号各証の成立を認め、甲第二号ないし第五号証、第七号証、第一一号ないし第一三号証の各一、二、第一四号証、第一五号証の一、二、第一六号証の一ないし四、第一七号証の一、二を援用する、乙第一号ないし第三号証、第五、六号証、第八、九号証、第一一号証の成立を認め、乙第三号証、第五号証、第九号証を援用する、乙第四、第七、第一〇号の成立は不知、検甲第一号ないし第九号証が控訴人主張のとおりの写真であることは認めると述べた。

理由

まず本件当事者参加の適否につき考えるに、債権者が民法第四二三条第一項により代位権を行使して第三債務者に対し訴を提起した場合、債務者に対しその事実を通知するか又は債務者がこれを了知したときは、債務者はこれと同一な訴を提起することは勿論、訴と同一効果を生ずる民訴法第七一条による当事者参加の申出をすることはできないものと解するのを相当とする(非訟事件手続法第七六条第二項、昭和一四年五月一六日大審院判決、民集第一八巻五五七頁、昭和二八年一二月一四日最高裁判所判決民集第七巻第一二号一三八六頁参照。)控訴人の被控訴人に対する本訴は、控訴人は参加人から本件店舗を賃借しその賃借権者であるところ、被控訴人は参加人に対抗できる権原がないのに、右店舗の二階四〇坪の部分を占有し、右店舗の階下四五坪の東南部と二階に通ずる階段の西側及び北側の土間に被控訴人所有物件を置いてその部分を占有しているから、右店舗の所有者である参加人に代位して右店舗の二階四〇坪の明渡及び段下の右部分にある被控訴人の所有物件の撤去、その部分の明渡を求めるものであること、本訴は昭和二五年三月一〇日提起され、参加人は昭和二七年六月三〇日の原審口頭弁論期日において、右事件の証人として尋問を受けた際「参加人に代つて控訴人が訴訟するについて異議はない。」旨証言したことは、いずれも記録上明白であつて、参加人は少くとも右口頭弁論期日において本訴が提起されていることを了知したものと解するのを相当とするから、同日以後は右訴が不適法として却下され又は却下されるべき場合の外は、同一の訴を提起することのできないことは勿論、訴と同一効果を生ずる民訴法第七一条による当事者参加の申出をすることはできないものといわなければならない。参加人は本件参加申出により被控訴人に対し別紙第一目録記載の部分の明渡を求めていることは、参加申出書の記載により明らかであり、明渡を求める請求の内同目録一、1記載の部分の明渡を求めるもの及び同目録一、2記載の内階下四五坪の部屋の東南部及び二階へ通ずる階段の西側及び北側の土間の被控訴人所有物件の置いてある部分の明渡を求めるものは、本訴と同一であると認めるべきであるから、参加人は右部分の明渡を求めるため参加申出をすることができないものといわなければならない。その余の被控訴人に対する請求及び控訴人に対する賃貸借契約が解除により終了したことを原因として別紙第二目録記載の部分の明渡を求める請求(参加申出書によりこの点は明白である。)は、いずれも控訴人と被控訴人間の本訴の目的となつていないものであるから、別訴で請求するのは格別、民訴法第七一条の要件を欠く不適法なものであるといわなければならない。もつとも、債権者が民法第四二三条第一項により代位権を行使して第三債務者に対し訴を提起した場合においても、その訴が不適法として却下され又は却下されるべき場合においては、債務者の提起した同一の訴又は民訴法第七一条による当事者参加の申出が結局適法となるものと解するのを相当とする。民法第四二三条第一項に基き代位訴訟が提起される場合においては、債務者の権利を代位行使する債権者は、いわゆる訴訟担当者として当事者(原告)となるのであり、債権者であることは正当な当事者であることの要件となるものと解するべきであるから、訴提起当時債権者であつても、訴訟の進行中に債権者でなくなれば、当事者適格を失い、その者の提起した訴は結局不適法となり却下されることとなり、この場合においては、債務者のした当事者参加の申出も結局適法となるものと解するべきである。参加人は、参加人と控訴人との間の本件店舗に関する賃貸借契約は、昭和三〇年七月二二日解除され、控訴人の右店舗に関する賃借権は消滅したと主張するので考える。後に認定するところにより明らかなように、参加人は控訴人に本件店舗を賃貸していたところ、各当事者間に成立に争のない丙第二号証、当審における控訴会社代表者増井一雄、参加人各本人尋問の結果によると、参加人は控訴人に対し、昭和三〇年七月一三日付書面で控訴人が本件店舗外二棟に対する昭和二九年二月分以降昭和三〇年七月分までの一ケ月五五、〇〇〇円の割合による延滞賃料合計九九〇、〇〇〇円を右書面到達の日から七日内に参加人方へ持参支払われたい、もし右期間内に支払わないときは賃貸借契約を解除する旨の催告と条件付契約解除の意思表示をし、右書面が翌一四日控訴人に到達したこと、控訴人が右期間内の賃料を支払つておらず又右催告期間内にもその支払をしなかつたことを認めることができる。右催告によると、参加人は本件店舗の賃料を昭和二九年二月分以降一ケ月五五、〇〇〇円として控訴人に催告をしているところ、控訴人は右賃料額を争うから、この点につき判断することとする。丙第一号証には本件店舗とこれに隣接する木造瓦葺二階建一棟約一三坪延坪二五坪、附属木造トタン葺平家建物置四坪五合を参加人から大阪魚類直販売株式会社に賃料一ケ月五〇、〇〇〇円の約定で昭和二四年七月一〇日賃貸した旨の記載があるが、当審における控訴会社代表者増井一雄本人尋問の結果によると、丙第一号証に賃借人として記載されている右会社は控訴会社とは別個の会社であることが認められるから、丙第一号証によつては、控訴人と参加人間の本件賃貸借契約の賃料が契約当初から五〇、〇〇〇円であつたことを認めることはできない。しかし、原審証人高木惣太郎の証言(第一、二回)により成立の認められる甲第一号証、同証言と弁論の全趣旨により成立の認められる甲第八、第一〇号証、丙第三号証、当審における控訴会社代表者増井一雄本人尋問の結果により成立の認められる甲第一八号証の一ないし三、原審証人高木惣太郎(第一、二回)、当審証人梅園貞雄(第一回)の各証言、原審及び当審における控訴会社代表者増井一雄本人尋問の結果、弁論の全趣旨を総合すると、控訴人が参加人から本件店舗及びこれに隣接する木造瓦葺二階建一棟約一三坪延坪二五坪、附属木造トタン葺平家建物置四坪五合を賃借した昭和二四年七月一〇日当時の賃料は一ケ月五、〇〇〇円で、外に家屋補修費名義で一ケ月一五、〇〇〇円を支払う約定であつたが、右賃料は、昭和二五年八月分から一ケ月一〇、〇〇〇円に、昭和二六年一〇月分から一ケ月一五、〇〇〇円に、昭和二七年六月分から一ケ月二〇、〇〇〇円に、家屋補修費名義の方も賃料が一ケ月二〇、〇〇〇円になつた頃一ケ月三五、〇〇〇円にそれぞれ増額され、控訴人は昭和二九年一月分まで右賃料及び家屋補修費名義の分を併せ支払つていたことを認めることができる。右家屋補修費名義で支払つた金員の性質につき考えるに、参加人が本件家屋を控訴人に賃貸してから今日まで右家屋を修繕したことを認めるに足る証拠はなく、賃料に比して補修費名義の分が多額であること、その他弁論の全趣旨を総合すると、表面の賃料は前記のような額であつたが、参加人の都合により家屋補修費の名義で実際上は本件店舗外二棟の使用の対価として前記補修費の支払をも受けていたことが明らかであるから、右補修費も賃料の性質を有するものといわなければならない。そうすると、本件店舗外二棟の建物の昭和二九年二月分以降の賃料は一ケ月五五、〇〇〇円であつたことは明らかである。控訴人は、参加人は控訴人に対し本件店舗全部を使用収益させる義務があるのに、その義務を履行していないのであるから、控訴人は右債務と同時履行の関係にある賃料支払義務の履行を拒絶することができる。従つて、控訴人に賃料債務の不履行なく、参加人の催告は無効であり、契約解除の効果は発生しないと主張するから考える。賃貸借の目的家屋の引渡義務とその使用収益の対価関係に立つ賃料支払義務とは同時履行の関係にあるから、賃借人は目的家屋の引渡の全部又は一部の履行がない場合これに対応する賃料の全部又は一部の支払を拒絶することができるものと解するのが相当である。しかるに、被控訴人が昭和二四年七月一〇日以前から本件店舗の二階四〇坪の部屋と階下四五坪の内東南部、階段の西側と北側の土間を占有しており、控訴人が参加人から右部分の引渡を受けず、現在に至るまで右部分を使用収益していないことは各当事者間に争がない。参加人は、参加人と本件店舗の前賃借人の高島屋とが賃貸借契約を合意解除して、控訴人に右店舗を賃貸することとした際、高島屋が被控訴人を退去させて控訴人に使用させること、控訴人も高島屋から本件店舗の占有の移転を受けること、被控訴人に関することはすべて高島屋と控訴人との間で解決する旨誓約していたから、控訴人が右店舗全部を使用収益することができないことにつき、参加人には責任がないと主張するが、高島屋や控訴人が参加に対しその主張のような契約をしたことを確認するに足る証拠はないから、右約定があつたことを前提とし、参加人に本件店舗の一部の引渡義務の不履行の責がないとする右主張は採用できない。かえつて、本件記録及び弁論の全趣旨によると、参加人は被控訴人に対しその占有する店舗の部分の明渡請求を求める訴を提起することなく放置しており、控訴人は本件店舗全部を使用収益することができないため、昭和二五年三月一〇日自己の賃借権を保全するため、参加人に代位して本訴を提起するに至つたことが認められるから、参加人は引渡義務の一部の履行を怠つていたものといわなければならない。そうすると、参加人が賃貸人として控訴人に本件店舗の使用収益をさせる義務を怠つている店舗部分(被控訴人の占有部分)に対応する賃料については、控訴人は参加人からその引渡を受けるまでの支払を拒絶することができるものといわなければならない。成立に争のない甲第二〇号証の一、二によると、控訴人が参加人から延滞賃料の支払の催告のあつた翌日である昭和三〇年七月一八日参加人に発した書面には、本件店舗全部の引渡があれば何時でも賃料を支払うべき旨の記載のあることが認められるのであつて、控訴人が参加人から本件店舗全部の引渡あるまで、控訴人の支払を拒絶できる半額の賃料の支払を拒絶する旨の同時履行の抗弁を行使する趣旨も含まれているものと解することができるから、控訴人の支払を拒絶し得る額につき考えるに、参加人と控訴人間の賃貸借の目的家屋は、本件店舗とこれに隣接する二階建約一三坪の家屋とその附属物置四坪五合であるところ、原審検証の結果によると、本件店舗は大阪市旭区千林町の繁華街に面し、一階は間口五間、奥行八間余の店舗でその裏に前記隣接家屋とその奥に物置とがあり、店舗の内部の東南部から二階に通ずる階段があり、二階は四〇坪の部屋と炊事場と六畳二間の隣接家屋の二階があることを認めることができるから、賃貸借の目的家屋の重要部分は本件店舗で、その他はその従たる価値しかないことが明らかである。そして、被控訴人は現在に至るまで、右店舗の二階四〇坪の部屋と階下四五坪の内東南部、階段の西側と北側の土間を占有しているのであるから、本件賃貸借の目的家屋の使用価値からみて、少くともその半分に等しい部分を占有し、従つて、控訴人は目的家屋の使用価値の半分に相当する部分のみを使用収益しているものと認めるのを相当とする。そうすると、控訴人は参加人が催告した昭和二九年二月分から昭和三〇年七月分までの一ケ月五五、〇〇〇円の割合による延滞賃料の内少くともその半額については、その支払を拒絶することができるものといわなければならない。従つて、参加人が控訴人に前示店舗部分の引渡をしないのにかかわらず右期間内の一ケ月五五、〇〇〇円を控訴人において全部支払うべきものとしてなした前記催告は結局過大であつて、賃貸借契約解除の前提としての催告としてはその効力がなく、従つて、右催告を前提として参加人のした賃貸借契約解除の意思表示はその効力を生じないで、本件賃貸借契約は存続し、控訴人は本件店舗につき賃借権を有することが明らかである。そうすると、控訴人は依然として当事者適格を有し、本訴は適法に存続しているのであるから、本件参加申出は適法となる由がない。以上の次第で、参加人の本件参加申出は不適法であることが明らかであるから、これを却下することとする。

控訴人の被控訴人に対する本訴請求につき判断することとする。本件店舗が参加人高木惣太郎の所有であること、参加人が昭和二二年九月一日株式会社高島屋に右店舗を賃貸したこと、昭和二四年六月三〇日参加人と高島屋とが右賃貸借契約を合意で解除したこと、被控訴人が控訴人主張の本件店舗の二階四〇坪及び階下四五坪の内控訴人主張の部分を占有しその所有の商品等を陳列していることは、いずれも当事者間に争がない。前掲の甲第一号証、第一八号証の一ないし三、成立に争のない甲第一五号証の一、二、乙第六号証、当審における控訴会社代表者増井一雄本人尋問の結果により成立の認められる甲第一六号証の一ないし四、原審及び当審証人高木惣太郎(原審は第一、二回)、梅園貞雄(当審は第一、二回)、尾崎徳次郎、阪田義男、高本きよの各証言、原審及び当審における控訴会社代表者増井一雄本人尋問の結果、及び弁論の全趣旨を総合すると、次の事実を認めることができる。株式会社高島屋は、もと参加人から本件店舗を賃借して森小路分店として百貨店営業をしていた。控訴会社の代表者である増井一雄が代表者であつた大阪魚類直売株式会社は、同分店内の一部で統制品の魚類等を販売していたが、次第に統制も解除され統制外品を生ずるに至つたので、統制外の魚類等販売を目的とする控訴会社を設立するため、増井一雄は梅園貞雄、尾崎徳次郎、伊藤竹二その他の者とともに発起人となり、昭和二三年末頃からその準備にかかつた。昭和二四年四月頃高島屋は前記森小路分店を閉鎖することとなり、その旨右分店内の業者に通告して来たので、当時設立中の控訴会社の右発起人らは、右分店が閉鎖された際本件店舗を控訴会社のために賃借しようとし、同年五月頃増井一雄、尾崎徳次郎、梅園貞雄らは、控訴会社の発起人として、高島屋の当時の分店部長阪田義男の仲介により、参加人に交渉した結果、参加人は将来設立される控訴会社に対し本件店舗及びこれに隣接する木造瓦葺二階建一棟と附属木造トタン葺平家建物置とを賃貸することとし、控訴会社は一ケ月五、〇〇〇円の賃料と補修費名義の一ケ月一五、〇〇〇円を毎月初に持参支払うこと、参加人に三〇〇、〇〇〇円を無利息で貸与し、契約期間満了後返還を受けること等の約定をした。控訴会社は、昭和二四年六月一五日定款を作成して同月一七日公証人の認証を受け、その後の設立手続を完了し、同年七月六日設立登記を経由して設立され、参加人と控訴会社とは同月一〇日前記発起人らと参加人のした前記賃貸借契約と同一内容の賃貸借契約を締結し、その旨の契約書(甲第一号証)を作成した。これより先、前記発起人らは、高島屋が参加人との間の賃貸借契約を合意で解除し、前記分店を参加人に明け渡すこととし、本店に引きあげたり、野田分店に商人を移らせたりして明渡ずみとなつた本件店舗の内被控訴人の占有する部分を除き順次引渡を受け、控訴会社の設立後これに引き渡した。以上の事実を認めることができる。当審における参加人本人尋問の結果中右認定に反する部分は、前掲の証拠と比べて信用しない。そうすると、控訴人は本件店舗につき賃借権を有することが明らかである。

被控訴人は、控訴人は、賃借人として参加人に代位して本訴を提起したところ、昭和三〇年七月二二日参加人から前記賃貸借契約を解除され、賃借人の地位を失つたから代位権を有しないと主張するが、既に認定したところにより明らかなように、参加人のした契約解除はその効力がなく、右賃貸借契約は存続しているのであるから、控訴人は賃借権者として所有者である参加人に代位して権利を行使することができるものといわなければならない。右主張は採用できない。

被控訴人は、控訴人は被控訴人が本件店舗の引渡を受けた後被控訴人の占有を侵害したのであつて、参加人から引渡を受けていなかつたのであるから、代位権を有しないと主張するが、本訴は民法第四二三条により賃借人である控訴人が賃貸人である参加人に代位して参加人の被控訴人に対する権利を行使するものであるところ、同条により家屋賃借権者が代位権を行使するためには、その権利が賃貸人の相手方に対抗できるものであることを要しないで、賃借権を有することのみで足るものと解するべきである。従つて、前記のように控訴人が本件店舗につき賃借権を有する以上代位権を行使できるのであるから、右主張は採用できない。

被控訴人は、参加人がみずから被控訴人に対し裁判上本件店舗の明渡を訴求することを回避せねばならない事情があるため、控訴人に裁判上の代位権を行使させる目的のため賃貸借契約を締結したのであるから、控訴人は民法第四二三条により代位権を取得することはできないと主張するが、参加人と控訴人とが被控訴人主張の目的のために右店舗につき賃貸借契約を締結したことを認めるに足る証拠はなく、かえつて、既に認定したところにより明かなように控訴人はその営業のため使用する目的で右店舗を賃借したのであるから、自己の賃借権を保全するため必要な限度で代位権を行使することができるものと解するべきである。従つて、被控訴人の主張は採用できない。

被控訴人は、民法第四二三条の代位権は総債権者の共同担保を保全させるために債権者に与えられた特別の権利であるから、特定の債権者の有する固有の権利を実現するために債務者に代位してその有する権利を行使することは許されないと主張するが、民法第四二三条の代位権は特定の債権の内容を実現するために行使することを許されるものと解するのを相当とするから、被控訴人の右主張は採用することができない。

被控訴人は、昭和二四年五月三〇日参加人との間で株式会社高島屋から本件店舗の返還を受けるときを始期として右店舗全部をその主張の約定で賃借する旨契約し、権利金の内一〇〇、〇〇〇円を参加人に交付したと主張するので考える。右主張にそう原審及び当審証人堀井キヨ、原審及び当審における被控訴人本人尋問の結果(原審は第一、二回)は、後掲の証拠と対比して信用できないし、当審証人杉田信一、山本マスヱの各証言は、被控訴人からの伝聞に基くものであつて右主張事実を確認するに足らず、他に右主張事実を認めるに足る証拠はない。かえつて、原審及び当審証人高木惣太郎(原審は第一、二回)、当審証人高木きよ、西尾加藤治、清水松太良、原審証人深見常三の各証言、当審における参加人本人尋問の結果を総合すると、被控訴人は、昭和二四年五月頃参加人の妻高木きよに対し、高島屋が本件店舗を参加人に返還したらこれを被控訴人に賃貸してくれるようにとの申込をしたので、参加人は被控訴人の真意をたしかめるため知人の西尾加藤治に依頼して被控訴人の意思を尋ねさせたところ、被控訴人は西尾に対し自分は高島屋の店員で直接交渉をすることはできないから賃借の話は断つてくれと答えたので、西尾はその旨を参加人に告げた。その当時高島屋の森小路分店長であつた清水松太良を通じ被控訴人から賃借の申込があつたが、参加人はその申込を承諾しなかつた。同年六月上旬頃被控訴人は参加人方に権利金であるとして新聞紙に包んだ一〇〇、〇〇〇円を持参し、参加人にその受領を求めたが、参加人から受領する理由がないといつて拒絶されたので、持つていたレインコートとともに投げ出すように右新聞紙包の金を置いて帰つた。そこで、参加人はその二日か三日後その妻きよに右レインコートと新聞紙包の一〇〇、〇〇〇円とを被控訴人方に持参させ返還させようとしたが、被控訴人は容易にこれを受領しなかつたため、仲裁に入つた深見常三が一時これを預ることとし、その後深見常三はこれを被控訴人に交付した。以上の事実を認めることができる。そうすると、被控訴人と参加人との間には、被控訴人主張の賃貸借は成立しなかつたことが明らかであるから、被控訴人の右主張は採用できない。

被控訴人は、昭和二二年九月一日株式会社高島屋から本件店舗の二階全部と二階に通ずる階段、階下の一部を控訴人主張の割合による賃料を支払つて転借し、右転借につき賃貸人である参加人の承諾を得て、高島屋の名義で自己の商品である家具類を販売して来たのであるから、被控訴人の意思に反して参加人と高島屋とが賃貸借契約を合意解除しても、被控訴人が適法に取得した転借権を消滅させることはできない。従つて、被控訴人は右転借権を参加人に対抗することができる旨主張するので考える。成立に争のない甲第二号証(乙第五号証と同一)、原審及び当審証人阪田義男、当審証人清水松太良、河津健次、池北与吉の各証言、原審における被控訴人本人の第一回尋問の結果によると、高島屋と被控訴人とは、昭和二二年九月一日(1) 、被控訴人は高島屋が森小路分店として営業している本件店舗の二階を使用して高島屋の名義を用い家具販売の経営を行うこと、(2) 、期間は一年とするが双方の協議の上延長することができる、(3) 、契約期間内でも高島屋が営業上の都合により解除の通告をした場合には、被控訴人はその通告を受けた日から一ケ月以内に本契約解除に伴う一切の義務を履行すること、(4) 、経営に関しては高島屋の承認を得た後被控訴人の計算でその従業員を使用すること、(5) 、被控訴人は本契約に基き生じた一切の売上高月額一五〇、〇〇〇円に達するまでは売上高の一割を、月額一五〇、〇〇〇円を超える場合は超過額につき五分を売上分配金として高島屋に納入すること、(6) 、被控訴人は高島屋の定める諸規程及び営業方針を誠実に守ること等の契約をした。右契約は、本件店舗の二階を被控訴人に転貸する趣旨のものでなく、高島屋が被控訴人に売場を提供して被控訴人の計算において高島屋の商号を用いて被控訴人がその商品を販売し、商品が販売されたとき高島屋がその商品を被控訴人から仕入れ客に販売したこととするいわゆる消化仕入の方法により高島屋が営業するためのものであつて、販売した商品に対しては高島屋が客に対し責任を負うものであることを認めることができる。当審における被控訴人本人尋問の結果中右認定に反する部分は信用しない。右認定事実から考えると、被控訴人は、高島屋からその森小路分店内において、高島屋の監督の下にその営業方針に従い、高島屋の名義で家具の販売を許され、一定の売上分配金を高島屋に支払つていたにすぎず、一定の場所を限りその部分につき独立の占有を有していたものではなく、従つて、被控訴人は高島屋から本件店舗の一部を転借したものではなく、又前記契約は被控訴人主張のように家屋の賃貸借と商号の使用に関する契約とが結合したものではないと認めるのを相当とする。そうすると、既に認定したところにより明らかなように参加人と高島屋との間の本件店舗に関する賃貸借契約が合意解除された以上、被控訴人は本件店舗を占有する権原を失つたものといわなければならない。従つて、被控訴人の右主張は採用することができない。

以上の次第で、控訴人の本訴請求中本件店舗の二階四〇坪の明渡と階下四五坪の内東南部及び階段の西側と北側の土間に存在する被控訴人所有の物件を撤去してその部分を明け渡すことを求める請求は、正当であるから認容されるべきである。

控訴人は、被控訴人が前記のように本件店舗の二階及び階下の一部を占有しているため、控訴人は一ケ月最低一五〇、〇〇〇円の得べかりし利益を失い同額の損害を被つていると主張し、原審証人梅園貞雄の証言、原審における控訴会社代表者増井一雄本人尋問の結果中には、控訴人が本件店舗をマーケツトにして利用すれば一ケ月一五〇、〇〇〇円の利益をあげ得る見込があつた旨の証言及び右店舗全部を控訴人が使用して水産物やその加工品を販売すれば、一ケ月一五〇、〇〇〇円ないし二〇〇、〇〇〇円位の純益をあげることができた旨の供述があるが、右は本件店舗全部を利用した場合のあげ得る見込の利益であつて、具体性を欠くばかりでなく、被控訴人が右店舗の二階及び階下の一部を占有することによる具体的な損害額ではないから、被控訴人が右部分を占有することにより控訴人の失つた得べかりし利益の額を確定することはできない。その他に右損害額を確定するに足る証拠はなく、結局控訴人の主張する損害額を確定することができないから、右請求は失当として棄却されるべきである。

以上と異り控訴人の請求を全部棄却した原判決は失当であつて、本件控訴は理由があるから、民訴法第三八六条により原判決を取り消し、本件参加申出は不適法として却下することとし、民訴法第八六条第九二第八九条第一九六条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 熊野啓五郎 岡野幸之助 山内敏彦)

第一目録

大阪市旭区千林町三丁目一八二番地(元同町一、三三四番地)上

一、木造スレート葺二階建南向き店舗の内

1 二階四〇坪の部屋

2 階下四五坪の部屋の東側二二坪七合及びその北西一坪の部分

3 階下事務所の内一坪の部分

二、右一の建物の北側にある七坪五合のトタン葺倉庫

第二目録

大阪市旭区千林町三丁目一八二番地(元同町一、三三四番地)上

一、木造スレート葺二階建南向き店舗一棟の内

1 二階一二坪五合の宿直室、食堂、炊事場

2 階下四五坪の部屋の内第一目録一、2記載の被控訴人の占有部分を除く二二坪三合の部分

3 階下ストツク場及び事務所の内第一目録一、3記載の被控訴人の占有部分を除く一一坪五合の部分

明細書

期間    月数 支払家賃   補修費    合計

昭和24年7月-25年7月 13  65,000円  195,000円  260,000円

25年8月-26年10月 15 150,000円  225,000円  375,000円

26年11月-27年6月  8 120,000円  120,000円  240,000円

27年7月-29年1月 19 380,000円  665,000円 1,045,000円

合計 715,000円 1,205,000円 1,920,000円

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